ヨーロッパ トイメーカー 訪問記

2004年10月に、ヨーロッパのトイメーカーを訪ねて参りました。
あまりにも内容が濃いため全てをご紹介する事は出来ませんが、簡単に紹介させて頂きます。

最初に訪ねたドイツのデュシマ社は広大な敷地にそびえる大きな会社で、とてもパワフルな2代目現社長のルル・シフラー女史が迎えて下さいました。日本では、「小さな大工さん」や「Dハンマートーイ」等おなじみの玩具がたくさんありますが、ヨーロッパでは幼稚園や保育園用の大型遊具や家具が有名で、フレーベルの教育理念やゲーテの色彩に傾倒し、数や形や色彩を子ども達が自然に学ぶことが出来る玩具を考案し作り続けており、安全面でも常に時間をかけて検査するなど、品質にもこだわるデュシマ社の手腕を感じました。

デュシマ社の正面玄関におかれた創設者クルト・シフラー氏の写真とジョイントで作られたウルム聖堂。
商品の耐久検査中。 不具合が見つかったらその商品のロット全て(約200個)を見直す徹底した品質管理。

2代目社長ルル・シフラー女史と共に。

工房の中は緑がたくさん配されたとても優しい環境でそこかしこにシュタイナーの哲学が生かされていました。「生誕セット」やミニチュア動物、当shopで大人気の「ブレーメンの音楽隊」など、今ドイツのおもちゃ屋で一番よく見られるのが、このオストハイマー社製です。創設者マルガレーテ・オストハイマー夫人が子ども達の創造性を育てることが大切と、色や木の感覚やシンプルなデザインに心がけ作り出されました。2年前に引退され、現在は社会奉仕に力を入れておられ、会社の売り上げの一部は子ども達の役に立つ分野に使われています。また「木馬のペーター」や「4人乗りバス」などで有名なケラー社やカラフルな「モビールニルス」で知られるキンダークラム社も今ではオストハイマー社の一部として経営されていました。

白木の人形を1点1点ていねいにやすりがけ(面取り)している様子。

クリスマス前だったので、マリア様の作成に追われていました。

カエデやニレの材料で作られた動物人形に水性塗料で着色しているところ。

ニック社は、「ニックスロープ」や「おりきイネス」「ドラムの玉落とし」で知れらていますが、ドールハウスの家具で知られるボドヘニング社の商品も引き継がれ、愛好家に喜ばれています。印象的だったのは全てコンピュータ管理の下機械化と手作業がうまく融合し、木くずやちりを全て無駄にせず工場の暖房の燃料にするなど、とにかく仕事場がクリアーで快適な環境だったことです。

おりきに見本の糸をかけているところ。
ドラムの玉落としの玉を正確に入れるよう工夫された手作業の様子。

シュタイナーのメッカとして有名なドルナッハの中心の小高い丘の中腹に”えっ”と驚く程小さい工房がありました。
それがスイス・デコア社でした。商品と言えば、「はめ絵」や「赤い手回しオルゴール」、「ジグゾーパズル」がありますが、小人の家のような工房の中で大きなトレヒストン社長と後2.3名が働き、ここではゆっくりと時間が流れていました。社長自ら熟練した職人の腕で作り続けておられ、私はとても愛着を感じました。
思いがけず近くにあるゲーテアヌム(シュタイナー教員養成所)も見学でき、今度また訪れますと誓いをたて後ろ髪を引かれる思いでそこをあとにしました。

「はめ絵」の中を切り抜いた外枠の切れ目に、小さな板をはめ込み接着中。
「はめ絵」の切り取られた動物のパーツを1点1点色づけ中。
トテヒスリン社長自ら「はめ絵」作りのプロセスを順を追って説明して下さいました。

創設者であり、「ネフスピール」のデザインで有名なクルト・ネフ氏が迎えて下さりお話や彼の個人的工房も見せて頂き私の今までのネフ社の印象が少し変わりました。今では、洗練されたデザインが目を引き、高級感あるインテリア的積み木として大人に大人気の商品ですが、ネフ社のこだわりは、あくまで子どもの創造性を育む玩具である事、障害のある子どもも含めて全ての子ども達が遊べるという事など、そういった視点で創作に励んでおられました。残念ながら工場内の撮影は企業秘密のためできませんでしたが、最新の機械技術と1つ1つの手作業の工程を拝見することができ、トップメーカーの由縁を感じました。

ネフ社内にあるクルト・ネフ氏専用の工房の前にかざられた自作品。
右下にあるピラミーは、今では廃盤品になっている積み木です。今回スイスの玩具店で見つけ購入し、当店に展示しています。

創設者クルト・ネフ氏と共に。

緑豊かな山の中腹にあるアルビスブラン社は、メルヒェンおすすめの「玉の塔レインドロップ」や「Aつみき」「メリーゴーランド」などを作っている会社です。ここでは知的には健常でありながら行動障害の傾向がある13~22才の男子青年達が本職の人たちと一緒に技術を身につけて働いています。とても素晴らしい環境の中、木の素材を厳選し一つ一つ丁寧に作られています。
アトリエ・ニキティキの西川社長がヨーロッパではじめて買ったおもちゃがこのアルビスブラン社のメリーゴーランドと伺い、どの商品も人の心に響くような玩具だなと感じました。

大木から良質の部分を切り取り玩具に使われています。もちろん残りの木は別の用途に使用されるそうてす。
メリーゴーランドのパーツの側面を手作業で色づけ中。

ゲッツヒホフは、知的障害者が治療を受けながら団体生活を送り、作品を作っている工房です。そこには、さまざまな美しい作品が並べられていました。以前、イギリスとアイルランドのキャンプヒルに行き、同じような光景を目にしましたが、ここスイスでは福祉が充実していて、福祉大国スイスを確認できました。

工房に併設のショップに飾られている羊毛絵の作品。ここにもキーナーさんのナイトランプが飾られていました。
工房では、障害のレベルに合わせて羊毛を使った作品やガラス細工、陶器などが作り出されています。

旅の最後は、キーナー社を訪問し、明るいキーナー女史に迎えられました。ここもまた自然豊かな素晴らしい環境で、自閉症やアルコール依存症、心に問題がある人々が保護され、寮生活を送り仕事をしていました。
キーナーと言えば、美しい絵と色で「キーナーメモリー」や「キーナーモザイク」「愛の絵本」「蝶」などでおなじみですが、豊かな庭園や農場があり自給自足の理想的な暮らしの中であの美しいデザインや絵が生まれたのだと実感できました。
木に直接印刷するというオフセット印刷は今ではとてもめずらしく、貴重な印刷技術だそうです。

キーナー社の敷地内にある豊かな牧場。
カテリーナ・キーナー女史と共に。
木に直接オフセット印刷する特殊な技術。
蝶のモビールが1人の従業員の手によって次々とうまれていました。

今回訪ねたどのトイメーカーも、子どもの成長を願い心を育む玩具である事、自然環境を壊さないものである事という自社独自の哲学をもち、本物を作っているという情熱と誇りが伝わってきました。

メルヒェンはこれからも、このような想いが伝わるお店にしていきたいと思い、旅から帰って参りました。